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2012年11月16日 (金)

本棚の旅■灰になる少年/ジョージ秋山

書 名/灰になる少年
著者名/ジョージ秋山
出版元/大都社
判 型/B6判
定 価/450円
シリーズ名/ハードコミックス(5)
初版発行日/昭和50年10月30日
収録作品/灰になる少年

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 この作品は、ジョージ秋山流の吸血鬼モノといっていいと思うのだが、巨大ロボットモノの『ザ・ムーン』がそうであるように、この作品も単に吸血鬼をテーマにした、といえないジョージ秋山作品ならではの哀愁がただよう佳作である。
 初出は73年の「週刊少年ジャンプ」で、おぼろげな記憶で、床屋かどこかで初出の一部を読んだような気がする。その後、大都社で単行本が刊行された際、「あ、あの作品だ」と思ったのでたぶんどこかで見ていたのは確かだと思う。
 ひと口に吸血鬼テーマのホラーと言い切れないミステリーやサスペンスが作品全体を覆っていて、主人公の少年が、殺人事件の犯人を父親だと信じ、自分も殺されると思って逃げ回ったり、不気味な怪物に襲われたりと、ストーリーがどこに向かっていくのか予想できないところがあるのは、ジョージ秋山作品の特徴と言っていいかもしれない。
 すでに『銭ゲバ』や『アシュラ』といった社会派作品も手がけた後でもあり、企業の社長である少年の父親が、公害問題で悩んでいたりする描写があったりもして、社会問題や、少年にはわからない社会の現実や大人の世界といったものが描かれている点で、この作品がジョージ秋山の代表的短編作品として知られるようになった要因になっているのではないかと思う。けっこう「トラウマ作品」として本作を挙げる人も多い。
 もっとも同時に、この時期にはギャグ作品、コメディ作品も手がけていて、個人的にはまだジョージ秋山=ギャグ漫画作家というイメージは強かった。
 現在は文庫版や電子書籍で読むことのできる本作ではあるけれど、大都社版のB6サイズが迫力があっていい。ジョージ秋山作品はあまり大判の単行本で刊行される機会がないのだけれど、本作や『ザ・ムーン』など、A5判などで刊行してくれないだろうか。
 

2012年11月15日 (木)

本棚の旅■ざんこくベビー/ジョージ秋山

書 名/ざんこくベビー①
著者名/ジョージ秋山
出版元/秋田書店
判 型/新書判
定 価/250円
シリーズ名/少年チャンピオンコミックス
初版発行日/昭和46年1月5日
収録作品/ざんこくベビー1~12話

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 初期のジョージ秋山の代表的なギャグ作品のひとつではあるのだが、少年チャンピオンコミックスからは1巻のみが刊行されただけで、その後他のシリーズ、他社からの再刊行もなく、単行本未収録のエピソードがかなりあるものと思われる。
 基本的なストーリーは、やんちゃ(?)な主人公の赤ん坊が巻き起こすドタバタで、それが大人顔負けのエグい行動であることから「ざんこく」というタイトルがつけられたものと推測される。
「ギギギ」というベビーの不気味な笑い方と「いつか殺してやる」というほとんどの登場人物たちに共通なセリフが、印象に残るが、70年代の世相を反映しているといったら言い過ぎだろうか。同時期には谷岡ヤスジなども活躍していて、極端な暴力や流血というのはギャグ作品ではありふれたものになっていた感がないわけではない。そのうえで「ざんこく」という言葉をタイトルに入れたことで、より過激な描写を要求されることになったのは事実だったのではないだろうか。
 とはいえ、本書カバーの折り返し部分のコメントに「ベビーちゃん一家は、抑圧された現代社会の縮図ではないでしょうか…」とあるように、本作でもジョージ秋山はギャグにペーソスを混ぜて、単に極端な描写による笑いだけを追求しない。
 ジョージ秋山の単行本未刊行作品がシリーズとしてまとめて刊行された際にも本作はラインナップには入っていなかった。初期の代表作のひとつとして、完全版での刊行が望まれる。

2012年11月14日 (水)

本棚の旅■コンピューたん/ジョージ秋山

書 名/コンピューたん
著者名/ジョージ秋山
出版元/少年画報社
判 型/新書判
定 価/240円
シリーズ名/ヒットコミックス
初版発行日/昭和45年8月15日
収録作品/コンピューたん(全16話収録)

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 ジョージ秋山の単行本の中でもレアな部類に入るのが、この『コンピューたん』ではないかと思う。
 主人公はロボットの少年で、そのとぼけた(?)行動に周囲が振り回されるなどして笑いへとつながるのが基本的な内容。印象的なのが、主人公である「コンピューたん」のセリフがテープ出力の文字情報になっている点。コンピューターにモニター画面や音声出力がまだ普及していなかった時代でもあり、マンガだからといって安易に言葉を話させないところはジョージ秋山らしいともいえるだろう。
 開始当初は、コンピュータの正直さが仇となったりして、泥棒の手助けをしてしまったり、その行動や言動による面白さがメインになっているが、しだいにコンピューたんが出会う人間たちの言動から哀愁のある展開を見せたりもする。これは後の『よたろう』などにもつながっていく展開ではないだろうか。
 また「ロボットはつらいよ」というエピソードで、コンピューたんが作る大型ロボットの頭部が『ザ・ムーン』に酷似していることも触れておこう。

 ジョージ秋山は昭和50年代にも『ピコピコロボベエ』というロボットの登場する作品を「冒険王」に連載している。『コンピューたん』がそういった作品の原点になっているのは間違いないだろう。

2012年11月13日 (火)

本棚の旅■黒ひげ探偵長/ジョージ秋山

書 名/黒ひげ探偵長
著者名/ジョージ秋山
出版元/集英社
判 型/新書判
定 価/240円
シリーズ名/ジャンプコミックス
初版発行日/1970年4月30日
収録作品/黒ひげ探偵長 全14話

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 初期のジョージ秋山の単行本の中でレアな部類に入る一冊。ジャンプ関連の作品は本書のほかも入手の難しいものがあり、ファンやコレクター泣かせともいえるだろう。
 本作の主人公「黒ひげ」氏は、探偵と漫画家を掛け持ちしているという設定で、漫画家としても人気作家で、締め切りに追われながら探偵として事件を解決する(というか、いつのまにか解決してるという雰囲気でもあるのだけれど)。タイトルにも「探偵長」と付いてしまっているので、ハードボイルドな雰囲気のカットが各話に必ず挿入されたりもするのだけれど、全体としては「漫画家」黒ひげがメインになっているといっていい。
 ビジュアル的に見ても、主人公の黒ひげは、ジョージ秋山本人をモデルにしていると思われるし、単行本の著者近影でお馴染みのサングラス姿も共通していたりする(もっとも、本書のカバー袖に掲載されている著者近影ではサングラスをかけていない、満面の笑みをたたえた珍しい写真を見ることができる。この写真だけでもジョージ秋山マニアは本書を入手するべきかもしれない)。
 基本的にはギャグ作品であり、探偵としてのシリアスなハードボイルドシーンも、ギャグを活かすためのスパイスとなっている。が、後半になるとしだいにペーソスが含まれだし、最終話では、人気漫画家もいずれ飽きられるという自戒のようなエピソードが描かれている。『パットマンX』や『ほらふきドンドン』といった長期連載作品があった一方で、単行本全一巻程度のギャグ作品が多かったジョージ秋山は、案外ギャグだけを描き続けることができなかったのかもしれない。その方向性が『デロリンマン』となり、『よたろう』になっていったのではないだろうか。
 ジャンプコミックスは巻末にタレントや著名人の推薦文が掲載されていたが、本書のそれは「コント55号」の萩本欽一であった。

2012年11月11日 (日)

本棚の旅■川崎のぼる傑作漫画集

書 名/川崎のぼる傑作漫画集
著者名/川崎のぼる
出版元/講談社
判 型/新書判
定 価/280円
シリーズ名/KCコミックス
初版発行日/昭和48年10月20日
収録作品/浪人丹兵衛絶命、百笑亭イモ助、野生馬ハクライ号

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 川崎のぼるというと『巨人の星』『荒野の少年イサム』『いなかっぺ大将』『てんとう虫の歌』といった長編作品が思い浮かび、短編作品にこれといった代表作が見当たらない印象があるのだが、本書のタイトルはそんな印象を裏付けているようだ。
 すでに『巨人の星』も完結して『てんとう虫の歌』を連載中の時期に刊行された思うのだが、作品タイトルを表題として単行本のタイトルにするよりも「川崎のぼる」という作家の名前の方がセールスが見込めると考えたのだろう。
『浪人丹兵衛絶命』は人のいい浪人を主人公にした時代劇、『百笑亭イモ助』は『いなかっぺ大将』の大左ェ門を大人のしたような噺家の卵の物語、『野生馬ハクライ号』は北海道の牧場を舞台にした馬の登場する物語だが、川崎作品初期の西部劇の匂いも感じる。
 ストーリーの読みごたえ、作画の充実感、それぞれ作者が充分に力を注いでいる印象があり、まさに「傑作漫画集」といえる内容なのだが、それだけにそれぞれのタイトルが独立して川崎のぼるの代表短編作という位置にないのが残念でもある。
 川崎は自ら「劇画家」と名乗ってもいたが、劇画とマンガを融合した中間的な印象が個人的には強い。雑誌に進出したのが早かったことがそういう作風の確立を後押ししたのだと思うが、同時に年少者の読者を意識した作品が多かったことも劇画的マンガに向かった理由なのかもしれない。

2012年11月10日 (土)

本棚の旅■ふきだまり/川崎のぼる

書 名/ふきだまり
著者名/川崎のぼる
出版元/オリオン
判 型/新書判
定 価/350円
シリーズ名/Pocket Comics
初版発行日/1976年5月10日
収録作品/ふきだまり(秋田書店「週刊少年チャンピオン」1970年6号~12号)
     ある浪人の死(虫プロ商事「COM」1967年11月号)
     悪魔博士(初出不明)

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 この単行本はオリオン出版から刊行された「ポケットコミックス」というシリーズの一冊にあたるのだが、オリオン出版というのはスタジオシップが一時使用していた出版社名。この単行本と同時期には少女マンガを多く刊行していた(牧野和子やのがみけいといった作家の作品が印象深い)。
 自動車会社社長の息子とその使用人の息子とが親友として仲良くつき合っていたが、あるきっかけでし子調の息子が怪我をしてしまい、その原因が使用人の息子だったことから、社長の陰湿な復讐が始まり、使用人と息子は将来の夢を絶たれ、仕事もなくしドヤ街へと流れていった。それから3年。すっかりすさんだ生活に馴染んでしまった使用人の息子は、社長宅のお手伝いだった女性と再会し、社長の息子もその後の生活を心配していたと知る。
 そしてドヤ街で出会った中年男性に「ドヤ街の上辺だけを見ているからだめなんだ」と諭され、ドヤ街にも将来の夢を抱いて生きている若者がいることを知る。
 お手伝いの連絡で社長の息子もドヤ街で再会し、同時に家を飛び出し使用人親子と生活を共にするのだった。
 ドヤ街を舞台にした人情ドラマであり、川崎のぼるらしい作品と言っていいだろう。
『ある浪人の死』はある浪人がひとりの少女と出会い、旅路を共にする話。『浪人丹兵衛絶命』に印象が似ている。掲載誌を意識したのか、コマ割りや表現が他の川崎作品とちょっと違っているような気もする。
『悪魔博士』はミステリー作品。夜汽車の中から始まる展開はいいのだが、中盤、ラストとどうにもわかりにくいところがあり、謎の解決についても犯人の手紙を読むという安易なものになっている上に手紙の内容自体がわかりにくいという、川崎のぼるにしては隙のありすぎる作品だった。絵柄的にも初期の作品と思えるが、制作に時間がかけられない状況だったのかもしれない。

 個人的にこの単行本は、川崎作品の一冊として記憶に残っているもののひとつなのだが、一般的にはオリオン出版、ポケットコミックス共にレアなものになるのではないかと思う。

2012年11月 9日 (金)

本棚の旅■キャプテン五郎/川崎のぼる

書 名/キャプテン五郎
著者名/川崎のぼる
出版元/小学館
判 型/新書判
定 価/240円
シリーズ名/ゴールデンコミックス
初版発行日/昭和43年8月10日
収録作品/キャプテン五郎(その1~その5)
    誓いの1
    本塁死守

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 メルヴィルの『白鯨』を下敷きにしたと思われる表題作のほか、王貞治を主人公にしたもの、高校野球の2短編を収録したものが本書である。
『キャプテン五郎』では、父と兄を、「シルバーキング」と呼ばれる大アカエイに殺された少年・五郎が、復讐のためにアカエイに挑む姿が描かれる。父が死んだときに同じ船に乗っていて、片目を失った大和という船長の船に密航し、船乗りとして成長していく姿も描かれる。
 クジラがダイオウイカと闘うことが知られているように、本作ではシルバーキングが大ダコと格闘するシーンも描かれている。
 川崎のぼるというと暑苦しいまでの人物描写が得意な印象なのだが、本作でもコック長と五郎の疑似親子的な愛情や、謎の船員ジョーとの疑似兄弟的な愛情が描かれている。
 タイトルに着けられた「キャプテン」は船長を意味するものだと思うが、五郎が船長あるいはそれに代わる立場になることは無く、単に語呂の良さで決定されたと考えられる。また兄とふたり兄弟の主人公の名前がなぜ「五郎」なのかもよく分からなかったりする。
『誓いの1』は東京近郊の球場でボールボーイのアルバイトをしている少年が、試合でやって来た王 貞治と出会うところからストーリーが始まる。王と同じ左で背番号1、ファーストで四番バッターというふたりは意気投合して、友情が芽生えていく。
『本塁死守』は野球部の紅白試合のとき、ホームスチールをした主人公のために腕を怪我をし、野球ができなくなった正捕手に変って、主人公が捕手として成長していく姿が描かれる。ちなみに、主人公はどう見ても『巨人の星』の飛雄馬、怪我をした正捕手は番 忠太、チームのエースは花形によく似ている。
 この野球をテーマにした2作品も、それぞれの登場人物たちの関わり合いや友情といったものが描かれていて、川崎らしい作品といえるだろう。
 こういった作品も現在気軽に読める状況にないのが大変残念だ。画力、ストーリーテリング共に卓抜した実力を持った作家であるだけに、著名な一部の作品だけではなく、本書のような作品も復刻のチャンスを与えてもらいたい。

2012年11月 8日 (木)

本棚の旅■死の砦/川崎のぼる

書 名/死の砦
著者名/川崎のぼる
出版元/朝日ソノラマ
判 型/新書判
定 価/240円
シリーズ名/サンコミックス(SCM-18)
初版発行日/昭和42年12月5日
収録作品/保安官志願、黒い荒野、西部の挑戦者、最後の決闘、荒野の群盗、泣き館、死の砦

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 朝日ソノラマ「サンコミックス」の初期は帯が付いていたりカラー口絵が付いていたりするが、本書も帯、口絵、解説(映画監督・岡本喜八)などが付いている(ちなみにシリーズ最初期のものには紐のしおりも付いていた)。
 本書は川崎のぼるの西部劇作品を集めた短編集。冒頭の『保安官志願』の主人公はチャリーといい、『大平原児』シリーズの一本になるのかもしれない。
 昭和30年代後半から40年代にかけてはテレビ・映画でも西部劇が人気であり、日本映画でもいわゆる「無国籍映画」と呼ばれる和製西部劇が人気を博していたので、マンガ・劇画の世界でもその影響を受けて西部劇が描かれたことは間違いない。とはいえ川崎のぼるほど巧みに西部劇らしい西部劇を描いていた作家はいなかったのではないかとも思える。本書に収録された各短編を読んでみても、その印象は強くなるばかりだ。
 登場する主人公たちはたいてい早撃ちの凄腕ガンマンで、アウトロー(無法者)であっても正義感がある。決闘シーンなどもほぼ全話に登場し、射撃のシーンも頻繁なのだが、ストーリー重視の姿勢なのか、銃器そのものへのヴィジュアル的なこだわりはあまり感じられないのも川崎西部劇の特徴といえるかもしれない。もっとも本書の場合、各話の扉ページでは銃がていねいに描かれてはいる(そのため、作品の扉自体は未収録になっている可能性が高い)。
 川崎のぼるの西部劇だけを集めた作品集などもあってもいいように思うが…どなたか企画してくれませんか?

2012年11月 7日 (水)

本棚の旅■大平原児/川崎のぼる

書 名/大平原児
著者名/川崎のぼる
出版元/秋田書店
判 型/新書判
定 価/240円
シリーズ名/秋田サンデーコミックス
初版発行日/昭和45年10月10日
収録作品/大平原児・無法者の道の巻
       〃 ・死の街道の巻

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 本作は「少年ブック」に掲載された川崎のぼるの西部劇作品。初期の川崎は西部劇ものが多く、それはやがて『荒野の少年イサム』へとつながっていく。
 ちなみに本書には「第一巻」の表記があるのだが、第二巻以降の刊行は確認できていない。また再刊行された気配もないので、単行本未収録部分もあるだろう。
「大平原児」というタイトルで、チャリーという同じ主人公が登場するシリーズ作品ではあるが、エピソード自体は独立した作品としても読める。設定は南北戦争当時のアメリカだ。
 主人公のチャリーは、銃の腕は確かだが自ら「無法者」を自認していて、正義の見方というわけではない(もちろん世の中に為に…という行動も見せるので、正義感がないわけではないが)。このあたり、劇画家と呼ばれ、劇画作品を手がけてきた川崎らしい設定といえなくもない。また、2話目のエピソードでは無法者から宿無しに表現が変っているところを見ると、当時の雑誌に於ける主人公の設定の制限も感じられたりする。
 ビジュアル的には『荒野の少年イサム』あるいは『巨人の星』と比べると描き込みが少ないように思え、部分的に貸本劇画的な描写と感じられるものもあったりして興味深い。特にアクションシーンでは、劇画チックと言ってもいい描写になっていると言えるだろう。
『巨人の星』という有名すぎる作品があるためにその他の作品に光があたりづらい川崎のぼるであるが、劇画とマンガの長所をうまく融合させていた作家だという印象が強い。今後再評価の機会があって然るべき作家のひとりだと思っている。

2012年11月 5日 (月)

本棚の旅■吸血鬼/さいとう・たかをセレクション

書 名/吸血鬼(さいとう・たかをセレクション)
著者名/さいとう・たかを
出版元/リイド社
判 型/文庫版
定 価/500円
シリーズ名/さいとう・たかをセレクション
初版発行日/2005年10月6日
収録作品/人犬(1966年/別冊少年マガジン)
     吸血鬼(1967年/別冊少年マガジン)
     血泥がえり(初出時期不明/月刊少年マガジン)
     黒い太陽の恐怖(1973年/週刊少年マガジン)
     獣人(1967年/小学五年生)絵物語さし絵

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 本書は60年代後半に発表された、さいとう・たかをの怪奇コミック作品を中心に集めた短編集。収録作品中『人犬』などはかつて朝日ソノラマの「サンコミックス」にも収録されていたはずだ。また同時に刊行された『魔海』は「アドベンチャー編」、本書は「ミステリー編」と記されている。
『人犬』はタイトル通り人が犬になる、ある種の変身物語だが、表題作である『吸血鬼』は、いわゆる妖怪であるところの「吸血鬼」ではなく、ちょっとひねってある。永井 豪にも吸血鬼をSF的解釈で扱った作品があるが、本作はまさにミステリー的に扱ったものといえるだろう。かつて吸血鬼が現れたという伝説のある村が舞台であるだけに、吸血鬼そのものが登場しないのはちょっと寂しい気がしないでもない。
『血泥がえり』はヨットで太平洋横断を試みようとして遭難してしまった青年が体験する奇怪な物語だが、瀬下 耽の小説、『柘榴病』的な雰囲気がある。二度とその島を見つけることができなかったというラストも、怪奇探偵小説の影響を感じてしまう。
『黒い太陽の恐怖』はミステリーと怪奇がバランスよく混じった作品で、さいとう・たかをというよりは石森章太郎的かもしれない。もっともタイトルからは、楳図かずおの『笑い仮面』を思い起こさせるのではあるけれど。
 巻末に収録された『獣人』は絵物語のさし絵で、今回が単行本初収録。文章が収録されていないので物語はわからないが、絵を見ているだけでは物足りないほど想像力をかきたてられる。次に収録する機会があればぜひ文字部分も復刻していただきたい。
 個人的には『人犬』がもっとも気に入っているのだが、ページ数のためか予想外にあっさりとした作品に仕上がっている。内容が内容だけにもっと膨らませた作品に仕上げることもできたと思うのでもったいない感じがしてしまう。
 ともあれ、ハードボイルド作品でしかさいとう・たかを作品に触れていない読者には、こんな一面もあるというのがよく分かる一冊なのではないかと思う。機会があればぜひ手に取って見て欲しい。

2012年11月 4日 (日)

本棚の旅■魔海/さいとう・たかを

書 名/魔海(さいとう・たかをセレクション)
著者名/さいとう・たかを
出版元/リイド社
判 型/文庫版
定 価/500円
シリーズ名/さいとう・たかをセレクション
初版発行日/2005年10月6日
収録作品/魔海(1965年・秋田書店「冒険王・増刊号」)
     挑戦(1961年・「顔・別冊」)
     チャブロ原人境(1969年・講談社「週刊少年マガジン」)
     ダイナマイトヒッチ(1967年・講談社「別冊少年マガジン」)
     鮫狩り(1966年・講談社「別冊少年マガジン」)

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 本書は同時期に発売された『吸血鬼』に対応して「アドベンチャー編」とされる60年代に発表された作品を収録した短編集。表題作の『魔海』と最後に収録されている『鮫狩り』は海を舞台にした作品。本書には単行本初収録の作品もあるようなのだが、どれがそうなのかは表記されておらず、定かではない(少なくとも『チャブロ原人境』『鮫狩り』の2編は過去に表題作として単行本が出ているので初収録ではない。『挑戦』のみさいとう・たかをのサイトにある作品リストにも見つけることができなかったので、これが初収録かもしれない)。
『魔海』『チャブロ原人境』は、怪奇・幻想あるいはSFに分類してもよさそうなストーリーで、『吸血鬼』に収録されてもよかったかもしれない。とくに『魔海』は、嵐で遭難した少年がたどり着いた島で巨大なカニと闘うという展開で、他の収録作品とは一線を画している。
『ダイナマイトヒッチ』は次から次へと話が転がっていくロードストーリー的なもので、お転婆な女性キャラクターがいい味を出している。個人的には、さいとう・たかを作品には珍しいものではないかと思う。
 読みごたえという意味では『鮫狩り』がもっとも充実しているように感じた。「アドベンチャー編」という意味でもこの作品はピッタリだろう。凶暴な人食い鮫の描写も実にいい。
 現在新刊書店で購入できるさいとう・たかを作品のほとんどは長編で、なかなか読み切りの短編を集めたものがないのだが、本書そして『吸血鬼』はさいとう・たかをの短編作品の魅力を存分に楽しめるものになっているといえるだろう。
 欲を言えば、貸本劇画時代の短編作を集めたものもぜひ刊行していただきたいところではある。

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