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2012年4月10日 (火)

■わたり鳥は北へ/河あきら

初出/別冊マーガレット(昭和49年・11月号)
書誌/集英社・マーガレットコミックス(1975年10月20日初版発行)

 河あきらといえば『いらかの波』が代表作となるだろうか。掲載誌の読者層に合わせて思春期の少女を主人公に、社会派的な内容の作品を多く描いていた作家という印象を持っている。とくに『いらかの波』以前の作品には読者の心をえぐるような内容のものが多く、中高生世代の人には読んでほしい作品が多い。
 ここで取り上げた『わたり鳥は北へ』という作品もそんなもののひとつで、救いのない作品といってしまえばそれまでだが、長く印象に残る作品であることは間違いない。
 教師の父、PTA役員の母、成績優秀な姉という家族の中で息苦しい生活を続けていた主人公の高校1年生のあさみは、偶然知り合った同世代の次郎によって、生活が変わるのではないかと感じ、次郎の誘いに乗って彼の故郷である岩手に行こうと決意する。しかし旅費のないふたりは、あさみの家族に狂言誘拐をしかけ現金を手に入れようとするのだが、あさみの父が警察に通報したことで、ふたりの逃避行が始まる。
 作品冒頭のあさみの生活や閉塞した状況に自分を重ねる読者もいるだろうし、逃避行中の冒険的な展開を楽しむ読者もいるだろう。しかし作者はリアルな状況も忘れておらず、ラストに向かってふたりを追い詰めていくのだ。さりげなく伏線を散りばめている点も作家としての力量を感じる。

 デビューは「別冊マーガレット」1969年4月号の『サチコの小犬』ということになっているが、それ以前に「COM」でも作品が入選している。
 現在では本作および河あきらの作品の多くは容易に読める状況ではないだろう。70年代後半の少女マンガの中でも異色をはなっていた河あきら作品が再び評価され、再刊されるような状況が来ることを願っている。

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2012年4月 9日 (月)

■新宝島/手塚治虫(原作・構成/酒井七馬)

初出/育英出版・書き下ろし単行本(昭和22年)
書誌/育英出版(昭和22年)
   ジュンマンガ(1968年)
   講談社(手塚治虫漫画全集・1984年10月3日初版)
   小学館クリエイティブ・小学館(2009年3月4日初版)

 本作は現在の日本に於けるコミック文化の原点とも言われるもので、この作品により刺激を受けた多くの漫画家、アーティストがいる。その代表的な例が石森章太郎や赤塚不二夫、藤子不二雄といった「ときわ荘グループ」だろう。
 一般に、本作発表以前の漫画は挿絵的なものが多く動きが感じられないと言われ、本作の映画的な躍動感が、読者に衝撃を与えたといわれている。これは現在の漫画を読んでいる読者にはよく理解できないものかもしれないし、リアルタイムで本作に触れた読者の衝撃というものを感じてみたいという気もする。藤子不二雄Aは冒頭のシーンから、その演出、作画に映画のようなスピード感や躍動感を感じたといくつかの著書などで告白している。確かにいま読んでみても違和感のないその画面は現在の漫画作品と同じといっていいのかもしれない。
「ときわ荘グループ」の漫画家たちをはじめとして多くの漫画家やアーティストによって、その衝撃が語られる反面、ボクら世代(もうけっこういい年)ですら本作を読む機会というのは全くと言っていいほどなかった。つまり噂だけが、イメージだけが先行した形でこの作品の素晴らしさをインプリントされてきたと言っていい。
 そんな中でようやく読むことができたのは、講談社の手塚治虫漫画全集に収録された本作だった。が、これは当時の原稿を使用したものではなく、また内容も含めて書き直された手塚治虫オリジナルの『新宝島』だった。
 多くの漫画家たちなどに影響を与えた本作は、じつは作者である手塚と酒井の合作であり、そのふたりの間でトラブルもあったことから育英出版版の再刊行、復刻というものが長くなされることがなかったのである(またここには当時の出版状況に起因する「描き版」という問題もからんでくる)。育英出版以後唯一復刻(トレスであったが)を試みた「ジュンマンガ」もそれ自体があまり知られる存在ではない。そして刊行から60年。ようやくわれわれはオリジナル版の『新宝島』を読む機会を小学館クリエイティブの復刻版によって得たのである。
 ストーリーは、主人公のピート少年が家の中で発見した地図をもとに、知り合いの船長と共に宝探しを敢行しようと相談していると、その地図を奪いに海賊が現れ、ピートと船長は捕らわれてしまうが、嵐により海賊船が難波し、海に放り出されどこかわからない島に漂着する。が、その島こそが地図に記されていた宝島であり、ターザンのような人物や海賊たちも再び登場しての活劇が始まる。手塚自身は「宝島」と「ロビンソン・クルーソー」、そして「ターザン」をミックスしたような作品と評していたようだが、まさにその通りの作品といっていい。
 先述したように現在の目で見ても、基本的な部分で現在の漫画作品との違和感は感じられない。作画面やコマ運びは当然発表当時の時代的なものを感じるが、キャラクターの動きやセリフまわし自体は確かに現在の漫画作品の原点と言っていいものだろう(もっとも比較対象が下手をすれば戦前の漫画作品だったりするので、本当にこの作品が現在の漫画作品の原点となったというのはシンボル的な意味にすぎないのかもしれないのだが)。
 繰り返しになるが、リアルタイムで本作の最初の単行本を手にした読者たちにとって衝撃的な作品であり、バイブル的な意味合いも持っていたというのは、事実であり本作によって漫画の面白さ、漫画制作に目覚め、のちに人気作家になっていた漫画家たちの数の多さを考えれば現在の漫画作品の原点ということも事実であろう。その意味で漫画ファン、漫画マニアを自認する者であれば1度は読んでおくべき作品といえるし、日本のコミック文化を語る上では避けて通れない作品であることも事実だ。
 しかしながらそ本作の成立過程には現在も不確かな部分があり、中野晴之や竹内オサムらによって研究されてもいる。個人的にはその知名度や存在意義に反して長い期間一般的に読むことができない状態だったことが最大の問題だと思うのだが、現在ではこうしてオリジナルの本作を読むことができるようになった。これからの読者は幸せである。

 さて、講談社版全集ではオリジナル版を改めて手塚自身が描き直したわけだが、その違いについても触れておく。
 ストーリーの大筋はオリジナル版のままであるが、オリジナル版のコマ割りが1ページ3コマであったのを4コマにし、左右の幅を狭くして映画のフィルムのような印象を与えている。要所要所でオリジナル版にはないコマを挿入して、より動きのあるコマ運びになっているのも「映画的」といわれたオリジナル版の印象を強めるためだろう。そして最大の違いはオリジナル版のラストシーンのあとに10数ページのオチが付け加えられている点だ。オリジナル版では当初手塚が作ったものを、60ページほどカットして最終的な形にしたとされているのだが、この全集版のラストは当初手塚が考えていたものだったようだ。もちろん全集版のラストも悪くないのだが、オリジナル版の方が夢のあるラストになっていたように感じる。未読の方はぜひ両方を読み比べていただきたいと思う。

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2012年4月 8日 (日)

本棚の旅■フラッシュZ/石森章太郎

書 名/フラッシュZ・全2巻
著者名/石森章太郎
出版元/双葉社
判 型/新書判
定 価/各350円
シリーズ名/バワァコミックス
初版発行日/1巻・昭和46年12月20日、2巻・昭和50年2月20日
収録作品/1巻・フラッシュZ、番外編タイムパトロール、おれとおれ
     2巻・フラッシュZ、エスパイ

 本作は「まんが王」1960年8月号~1961年3月号まで連載されたもの。また番外編は「少年画報」1961年4月号に掲載された。
 ある日、大量の隕石が降ってきた。しかしそれは隕石ではなく宇宙人の侵略の始まりであった。それを予見していたように、アポロという名のロボットに命令して鬼のような宇宙からやってきた怪物を倒していく桃太郎少年。彼こそが本作の主人公フラッシュZである。
 桃太郎は、宇宙人が侵略目的であらかじめ地球に侵入させておいた自分たちと同じZ星人の子供のひとりであり、日本に配された子供はむかし話のように大きな桃の中から出てきたことから桃太郎と名付けられ育てられたのだった。そして侵略が始まるとZ星人の呼びかけにより世界各地から同じように地球でそだった宇宙人たちが集められ、侵略の手先となることを告げられる。しかし桃太郎はそんなZ星人の反抗し、ひとり闘うことを誓うのだ。もともとがZ星人であるためか、少年でありながらスーパーマシンやロボットを完成させることができた桃太郎ことフラッシュZは、地球人の丹波博士の協力を得て、Z星人が現れる1年前にタイムマシンで戻り、Z星人に対抗できるクロスマシンを完成させて、地球を守るのだ。
 半世紀前のSFコミック、と言ってしまえばそれまでだが、ストーリー構成や細部の設定はほころびが見えて、もっと面白い作品になったのではと感じさせるところがある。すでに作家としては多忙な時期に入っていた石森だったはずなので、時間をかけて仕上げることがかなわなかったのかもしれない。そして最終的に宇宙人の侵略は止まるのだが、主人公側の登場人物はすべて死んでしまうというダークな展開。もしかしたら無理やり終わらせたのかもしれない。作画面でも同時期に作品に比べて荒い印象もあり、正統派のヒーロー作品になる要素を持ちながら単行本化にも恵まれず不遇な扱いを受けることになったようにも思う。
 
 双葉社の「パワァコミックス」シリーズはタイトルは知られていながら単行本化されていなかったり絶版になって久しい作品を復刻してくれたり、漫画ファンにはうれしいシリーズだったが、この『フラッシュZ』、同じ石森の『王(キング)アラジン』もそんな作品だった。


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2012年4月 7日 (土)

本棚の旅■王(キング)アラジン/石森章太郎

書 名/王(キング)アラジン・全2巻
著者名/石森章太郎
出版元/双葉社
判 型/新書判
定 価/各350円
シリーズ名/パワァコミックス
初版発行日/1巻・昭和50年5月10日、2巻・昭和50年6月10日
収録作品/1巻・王(キング)アラジン(アラジンあらわる!、アラジンのランプとエネルギー・ガン、アラジンよ おれのどれいよ!、国立科学研究所、エネルギーガン いずこ)
     2巻・王(キング)アラジン、赤い魔神

 本作は「少年画報」1961年5月号~1962年3月号に連載された、石森章太郎の作品。同時期には代表作でもある『幽霊船』や名作『竜神沼』なども発表されている。
 内容は、石森章太郎が『鉄人28号』を描いたらこうなる、といったもので、ランプから現れる謎の巨人(実はラピア星人)アラジンとアラジンを自由に操ることのできるランプ、そしてアラジンにエネルギーを与える銃の奪い合いがストーリーの基本軸となっている。現代のフランケンシュタインとも言うべきマッドサイエンティストによって作られたロボット(人間の脳を使っているのでサイボーグというべきかもしれないが)も登場し、アラジンとの戦闘シーンも描かれている。このあたり、鉄人とブラックオックスという印象をどうしても受けてしまう。
 本作の時点で石森は、人間が宇宙人によって造られたものであるという設定を持ち込んでいる。また宇宙人たちの思惑から外れ、戦争を繰り返すロボット(地球人)を星ごと消滅させようということまで宇宙人は述べ、主人公の説得によって100年間だけ猶予を与えられることになるのだが、これは横山光輝の『マーズ』にもつながる印象を持った。
 ビジュアル面では初期のまるっこい絵柄が基本になっているがアラジンや、主人公の友人となる新聞記者など頭身の高いキャラクターも描かれ、過渡期といってもいいかもしれない。
 ちなみにアラジンのデザインをのちの『ゴレンジャー』の原型と指摘している人も複数いるようなのだが、作者的にはそういう思惑もなく、単純に考えられた物ではなかったかという気がする。あえていうならゴレンジャーのデザインが安易すぎたということではないだろうか。
 単行本は本書のほか、石ノ森章太郎萬画全集で刊行されている。

 2巻に収録された『赤い魔神』は「中学生の友一年生」1960年5月号~12月号に連載された作品で、火星人の侵略を描いたもの。似たような設定の作品が石森にはいくつかある。

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2012年4月 6日 (金)

本棚の旅■怪人同盟/石森章太郎

書 名/怪人同盟
著者名/石森章太郎
出版元/メディアファクトリー
判 型/A5判
定 価/1000円
シリーズ名/ShotaroWorld(015)
初版発行日/1998年3月1日
収録作品/怪人同盟(4話)、恐怖植物園(番外編)

『怪人同盟』は秋田書店の「冒険王」に1967年3月号~8月号にかけて連載された。また番外編の『怪奇植物園』は同誌1979年8月号に掲載された。単行本は当初1967年に、秋田サンデーコミックから1967年連載分を収録したものが刊行され、その後同単行本は1976年に秋田漫画文庫で文庫化された。この刊行年からわかる通り番外編は単行本刊行後に発表されたもので、単行本収録は今回取り上げたメディアファクトリー版が初収録となった。
 作品年表で見ると「少年マガジン」での『サイボーグ009』連載終了と同時に本作の連載がスタート、また同じ「冒険王」では5月から『009』の連載が始まっている。内容の割りに短命に終わったのは『009』復活の余波と見るべきとの本書解説の見方は正しいだろう。ちなみにこの解説では本作品の3人の主人公が持たされた超能力を『009』のメンバーに当てはめて、『サイボーグ009』を別の角度から描こうとしたと見ているが、ボクとしては機械的な改造ではないという作品中の記述から考えると、純粋に超能力を扱った作品として構想していたのではないかという気がしている。
 全体として主人公がごく普通の少年たちであり、ある日突然超能力を持ってしまったというところから、関わる事件も身近な殺人事件や誘拐事件が多い。3話では「ジキルとハイド」のように薬によって変身するというSF的なエピソードが描かれるが、むしろこれが例外といってもいい(このエピソードはモノクロアニメ版の『サイボーグ009』にも使用された)。何者かはわからないが3人の少年たちに特別な能力(変身、怪力、予知)を与え、3人はそれを地球人が試されていると感じる。このあたりの設定は平井和正・桑田次郎の『エリート』に通じるだろう。
 実は石森作品を最初に読んだのがこの『怪人同盟』だったと思う。秋田サンデーコミックス版を偶然手に入れ、その面白さにのめり込んだ。また普通このような能力を持った主人公たちを登場させればタイトルは「超人同盟」でもいいところを「怪人同盟」とした点に作者のセンスも感じてしまう。単行本カバーの表紙にも使われた大きくタイトルをデザインしたイラストも、崩れかけたコンクリートのような文字の印象が強く「怪人同盟」というタイトルの怪しさを引き立てている。
 ところで主人公の3少年のうち、特に主体となって描かれるのは変身能力を持った竜二だ。そう、その後描かれる「リュウ」シリーズにこの主人公も属していたのではないかと思うのである。


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2012年4月 5日 (木)

本棚の旅■気ンなるやつら/石森章太郎

書 名/気ンなるやつら
著者名/石森章太郎
出版元/虫プロ商事
判 型/新書判
定 価/240円
シリーズ名/虫コミックス
初版発行日/昭和43年5月30日
収録作品/気ンなるやつら

 本作品は「平凡」に1965年1月号~1968年6月号に渡って連載されたもの。初単行本は虫コミックスから刊行され、これは虫コミックスの第1弾だった。ちなみに虫コミックス版以後、朝日ソノラマ、双葉文庫、石森章太郎萬画全集、電子書籍と再刊行されたが、虫コミックス版のみ2話未収録となっている。虫コミックス版では、尾崎秀樹、北 杜夫両氏の解説が付されている。
 内容は気軽に読めるナンセンス調の青春コメディーといったもので、6ベエとマリッペというふたりを中心に、カミソリ、リス、ゴリラを含めた5人組が日常のさまざまな出来事や、時には事件に巻き込まれていく。6ベエとマリッペは隣同士の幼なじみで、屋根づたいに行き来する間柄。このあたりの設定はのちに『イナズマン』にも流用される。
 本作品は各話に扉がなく、タイトルを表記するために半ページほどのコマ(スペース)を使っている。このタイトル部分のイラストは毎回マリッペのファッショナブルな衣裳が印象的で、軽妙な内容と共に石森のセンスを感じさせる作品となっている。
 またコマ割りや内容にも実験的なものが見られ、『ジュン』とはまた違った意味での新境地だったのかもしれない。
 SFならば『サイボーグ009』、時代物なら『佐武と市捕物控』とそれぞれのジャンルで代表作のある石森だが、本作も青春コメディーの代表作であることは間違いない。機会があればぜひ読んでいただきたい作品である。
 

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2012年4月 4日 (水)

本棚の旅■Sπ(エスパイ)/石森章太郎

書 名/Sπ(エスパイ)
著者名/石森章太郎
出版元/虫プロ商事
判 型/新書判
定 価/240円
シリーズ名/虫コミックス
初版発行日/昭和43年6月25日
収録作品/Sπ(エスパイ)・全5話、ドクターSF・全2話、時間局員R・全3話、解説・尾崎秀樹

 小松左京に、映画化もされた『エスパイ』というSF小説があるが、本作とは無関係。タイトルから超能力を駆使してのスパイものという印象も受けるが、さにあらず。新発明・珍発明の武器でロボットスパイ組織「マッドマシン」と対決する「πナップル日本支部」の00五郎、00八郎、00ナナ子が主人公である。
 内容は特にコミカルなものではないが、各話のページ数が多くないことから気楽に読めるような軽いものになっている。「πナップル日本支部」は、どうやら東京都練馬区、石森邸の近所にあるらしい。
 本作はこの虫コミックス版でメインタイトルとして刊行されたほか、双葉社のパワァコミックス『フラッシュZ』第2巻にも収録されるなどしている。
『ドクターSF』はタイムトラベルをからめたある種の侵略SFもの。2話あるが同じ設定のストーリーをリメイクしている。かなり変えてあるので連続して読んでも飽きることはない。
『時間局員(タイムパトロール)R』はタイトル通りの時間をテーマにしたSF作品。本書に収録されたものの中では一番シリアスな作風でもある。
 本書は石森章太郎のSF作品を集めたという印象であるが、もうひとつ初出誌という点でも共通した作品群である。
『Sπ(エスパイ)』中一時代・昭和42年4月号~8月号
『ドクターSF』中二時代・昭和40年4月号~41年3月号
『時間局員R』中一時代・昭和41年4月号~42年3月号
 このように旺文社の学年誌に連載された作品群ということがわかる(ちなみに『Sπ』は中一時代のほかに「ビクトリー」誌昭和42年7月号~12月号という連載記録もある)。
 一般的な少年マンガ誌が、小学生を含めた読者を対象にしていたのと違って、特定の年代(この場合中学生)を対象読者にしていた点で、ちょっと大人な設定やセリフまわしがあってもよかったと思うが、本書に収録された作品を見る限り、少年マンガ誌に掲載された作品よりも分かりやすく読みやすい内容を、と考えていたようだ。基本的に「学習誌」というカテゴリーに入る掲載誌だったことで、気分転換になるようなものを目指したのかもしれない。

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2012年4月 3日 (火)

本棚の旅■幻の怪蛇 バチヘビ/矢口高雄

書 名/幻の怪蛇 バチヘビ
著者名/矢口高雄
出版元/講談社
判 型/B5判
定 価/370円
シリーズ名/少年マガジン名作コレクション
初版発行日/2004年9月19日
収録作品/幻の怪蛇 バチヘビ(1~4話)、バチヘビ始末、最新ツチノコ情報局(記事)

 本書は昭和48年「少年マガジン」に掲載され、その後4話まで断続的にシリーズ作品として描かれ、KCコミックスとしても刊行された『幻の怪蛇 バチヘビ』に、作者・矢口高雄自身の経験談『バチヘビ始末』をプラスして刊行された雑誌版の作品集である。表紙には「連載後初のB5判大型サイズで迫力ある画面!」とのコピーも入っている。
 最初の単行本で読んだのは、すでに『釣りキチ三平』で人気作家になっていた時期だったのだが、雑誌の初出では未見だったため、B5サイズでは本書が初めてということになる。相当なブランクを置いての再読ということもあり記憶にあったシーンが印象とは違っていたりもしたのだが、作品そのものの面白さは変わっていなかった。
 この作品によってバチヘビ(いやツチノコと言った方が通りがいいと思うが)ブームが起きたのは間違いがないだろう。その前後にもネッシーなどのUMAが話題になったりはしていたが、なんといっても国内で、自分たちの身近に謎の生物が存在しているという感覚がわくわくする気持ちにさせた。
『釣りキチ三平』でもそうだったが、本作でも舞台のほとんどは矢口の故郷である秋田の山間部であり、自然描写がふんだんに盛り込まれている。
 バチヘビ自体は現在でも捕獲されていないので客観的で正確な描写というのはできないわけだが、本作では矢口が目撃した記憶と過去の目撃例から推測したバチヘビが描かれている。個人的にはバチヘビ(ツチノコ)の外見的特徴というのは本作のイメージが強くなっている。
『バチヘビ始末』という作品は本書が初読だったのだが、『バチヘビ』執筆に至る経緯や矢口自身の目撃談など興味深い内容の作品だった。
 正直言って矢口高雄の作品はあまり読んではいない。『釣りキチ三平』も10巻ほどまで読んだだけじゃなかったかと思う。しかし本作品に関しては好きな作品であり、矢口高雄の代表作のひとつとしていいのではないかと思っている。
 

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2012年4月 2日 (月)

本棚の旅■おお! わが愛しのマスク/山上たつひこ

書 名/おお! わが愛しのマスク
著者名/山上たつひこ
出版元/朝日ソノラマ
判 型/新書判
定 価/260円
シリーズ名/サンコミックス
初版発行日/昭和46年7月7日
収録作品/おお! わが愛しのマスク、うちのママは世界一、ホワイトクリスマス、あな恐ろしや、焼却炉の男、きざまれた疑惑

 本書は山上たつひこの4冊目の単行本でありサンコミックスから刊行されたものの1冊目にあたる。収録された作品と初出は以下の通り。

 おお! 愛しのマスク/別冊少年マガジン・1969年10月号
 うちのママは世界一/ビッグコミック・1970年2月25日号
 ホワイトクリスマス/1968年
 あな恐ろしや/ビッグコミック増刊・1971年2月1日号
 焼却炉の男/まんが王・1970年2月号
 きざまれた疑惑/デラックス少年サンデー・1969年10月号

 収録された作品のいくつかは双葉社の「山上たつひこ選集」などにも再録されている。
 本書の存在を最初に知ったのは、サンコミックス巻末の刊行リストでだった思う。すでに刊行から何年も経っていたので新刊書店の店頭には並んでいなかったのは当然だが、注文しても品切れになっていたのではないかと思う。本書と、同じ山上作品の『旅立て! ひらりん』は気になりつつも読むことのできない単行本としてその後数年が経過するが、友人の兄の蔵書にあるということで、借りて読むことができた(かなり膨大な漫画の蔵書があったのだが、その後とあるキッカケで大半を譲り受けることになる)。すでに『鬼面帝国』も読んでいたあとなので『がきデカ』以前のSF作品などが収録された本書をわくわくして手に取ったのをおぼえている。もっとも表題作の『おお! わが愛しのマスク』はSFと言っていいが、そのほかの収録作品はSFというよりは心理サスペンス的なものが多い。小学校の教師が受け持ちの生徒の作文を読んでいくという形で進行する『うちのママは世界一』など、ひねった演出、印象に残るラストの作品も多い。
 表題作『おお! わが愛しのマスク』は100ページの読みきり作品で、さまざまな伏線を敷いての読みごたえのある作品だ。
 主人公は4年前に初めて顔の整形手術を受け別人の顔になったあと、整形が趣味のように数百回と顔を変えてきたが、そんな趣味にも飽き本来の顔に戻ろうと、いつも手術を頼んでいるモグリの整形外科医を訪ねる。しかし元の顔の写真を自分でも持っていないと言い、医者が保管していた写真を探してみるのだが2週間前に入った空き巣に盗まれたらしいとわかる。どうやら主人公のいまの顔のモデルとなった人物に何か曰くがあり、主人公自身も命を狙われることになる。
 この主人公、そんな風にしょっちゅう整形で顔を変えるなど道楽三昧の日々を過ごしているが、それは親が残した莫大な財産があるため。しかも元をただせば祖父がどこからか3億円を持ってきたのが始まりだという。つまり作品発表当時話題となっていた3億円強奪犯人の孫という設定なのだ。これは本筋にはまったく関係のないエピソードなのだが、ちょっとしたお遊びにニヤリとさせられる。
 それにしても山上たつひこの発想力、構成力には改めて感心させられる。『がきデカ』や『喜劇新思想体系』もいいが、それ以前に描かれたシリアス系の短編作品ももっと気軽に読めるようになるといいのだが…。
 
 余談だが、本書刊行後朝日ソノラマからは『光る風(サンミリオンコミックス)』『旅立て! ひらりん(サンコミックス)』が立て続けに刊行される。山上は「朝日ソノラマさんにはお世話になった」とこの当時のことに感謝していたということである。

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2012年4月 1日 (日)

■鬼面帝国/山上たつひこ

初出/講談社・少年マガジン(1969年6月29日号~7月6日号)
書誌/東考社・ホームランコミックス(併録/遺稿、良寛さま)
   秋田書店・サンデーコミックス(1976年4月30日初版、併録/ウラシマ、ミステリ千一夜、そこに奴が…)
   講談社・KCスペシャル(1987年10月6日初版、併録/2人の救世主、やってきた悪夢たち、石の顔、焼却炉の男、手紙、遺稿、地上(うえ)、故郷は緑なりき、白蟻)

『2人の救世主』で少年誌デビューした山上たつひこが『やってきた悪夢たち』に続いて「少年マガジン」に発表したのが本作だ。
 ストーリーは、崖から落ちて昏睡状態になったふたりの青年が地獄から脱出して生き返るまでを描いている。もっともその地獄の世界は一般的なイメージではなくSF的な味付けをされた現実世界とは別次元の異世界という設定になっている。
 最初の単行本である東考社版は発行年月日不明なのだが70年以前の刊行と思われる。ボクがこの作品を初めて読んだのは秋田サンデーコミックス版であった。当時はすでに「『がきデカ』の山上たつひこ」というイメージが出来上がっていたので本作のような作品もあるのだなという印象を持ち、『がきデカ』以前のSF作品をもっと読んでみたいとも思ったのだが、その当時はそういった作品がまとめられた単行本が新刊書店には並んではいなかった(せいぜいサンミリオンコミックスかソノラマ漫画文庫の『光る風』くらいだったと思う)。
 ここで描かれる「地獄」は先述した通りSF風味の異世界なわけだが、死んだ人間はすべて、まずこの地獄に送られてくる。自分では意識していなくとも何らかの罪を人は犯しているものだというキリスト教でいう原罪思想のような設定になっているのだが、その罪も果して罪なのかというところも描いている。地獄は鬼の種族が支配していて人間たちは奴隷のような扱いを受けており、鬼への奉仕など一定の評価が得られたものだけが極楽へと送られる。そこはすべてが平等な世界だというのだが、そのことへの疑問も主人公の言葉として山上は読者に投げかける。
 作品が発表された69年といえば、まだ学生運動も盛んで「少年マガジン」も劇画系作家を積極的に起用し、高校生や大学生にまで読者層を広げて行った時期でもある。思想的なテーマや哲学的なセリフまわしの作品も多く描かれた時期とも言える。山上たつひこも本作の後『光る風』を70年に連載することになる。もっとも本作は『光る風』のように重苦しるしさを感じずに読めるところがいい。
 山上たつひこというとどうしても『がきデカ』『喜劇新思想体系』などギャグ作品が取り上げられがちだが、本作のようなSF作品ももっと評価されてもいいのではないかと思う。




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