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2006年11月11日 (土)

■冬の最初の日

 少し前から胃のあたりがチクチク痛むとは思っていた。前の夜食べすぎたとか、飲みすぎたとかいった程度のことだと思い込むようにしていたのかもしれない。しかし、ついに宣告はやって来た。

 昔と違って治らない病気ではない。それはわかっていたが、やはり重い病気であることには違いなく、また、すでにかなり進行していることもわかっていた。
 このまま死を迎えるのもひとつの選択だ、と妙に悟った考えも浮かんだ。独身の気楽さから、残される家族を心配する必要もない。むしろ、長生きして、孤独な老後を想像することの方が辛かった。
 両親はまだ健在だから、悲しませることになるだろうが、子供のときから親の死に目を見るよりは、自分が先に死にたいと思っていた。友人知人もいるが、あまり深い関係は持っていないので、葬式にも来てくれるかどうか、と考えてみると少し寂しくもなった。
 病気のことは、まだ自分以外に知るものはいない。このまま知らせずにおこうと決心し、遠くない離別を自分なりに予想して、まず、参加している趣味のサークルの役員を下りる手続きをした。
 さしたる理由もなく、サークルを離れようとする行為に、周囲から反感もかったが、それはこの際仕方ないと考えた。
 仕事は、生きている間は続けなければ生活できないので、いつでも代わりの要員が手配できるよう、後輩を育てることに気を配った。
 胃のあたりの痛みは、しだいに頻繁となり、痛み止めが手放せなくなった。薬の薬用が多くなったことを周囲から指摘されたが、あれこれと言い繕って、病気のことは知られずに過ごすことができた。
 その朝、目覚まし時計の音で起きると、これまでにない痛みが襲ってきた。
「いよいよきたか」
 期待していたような、諦めたような、他人事のような感覚があった。痛み止めもあまり効果がなく、仕事を休まざるを得なくなり、けっきょくその日からベッドの上での生活が始まった。

 病気を知ってから食欲もあまりなく、痩せ始めていたが、さらに急激に体重が落ちていくのがわかった。
 見舞いの電話やメールももらったが、努めて明るく、近いうちにまた会おうと答えた。それが叶わないことだということは、自分が一番よくわかっていた。
 一日中激しい痛みに襲われた。眠っていても痛みで目が覚めることがあった。
 11月のある朝、なぜかその日は痛みもなく、以前のような爽快な気持ちで目が覚めた。食欲もあって、しばらく食べていなかった、好きなものを食べた。それでも痛みはなかった。
「これが最後なのかもしれない」
 そう思うと、ふと酒と葉巻をやりたくなった。
 シングルモルトのラガヴァリンをグラスに注ぐ。ボトルにはまだ半分ほど残っていて、これを残してしまうのはもったいないな、などと思った。葉巻は、最後に火を着けようと、用意していたものが一本あった。
 久しぶりのラガヴァリンのヨード臭が鼻を刺激する。ひと口含むと、スモーキーな香りが口の中に広がった。
「うまい」
 思わずつぶやいていた。と同時に、涙があふれてきた。
 喉にアルコールの焼けつくような感覚が通っていく。
 これが最後か。
 もう一度思った。涙は止まることなくあふれている。グラスを持つ手がにじんで見えた。
 窓を開けると、冬の匂いがする風が頬を撫でた。

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